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コーチ バッグのポイント

N総研のアンケート調査のところでふれたように、この研究会がMレポートをまとめた。 Nは、この研究会には特別の期待を寄せ、報告をまとめるまでの半年のあいだに最もせわしく一九回も会議を重ねた。
N自身も出席し、出なかったのは一回だけだった。 この種の会議も私的な場であり、さきの裸の付き合いなどにこうした出会いも合わせると、相当な回数になる。
また、Tは、公的な政府諮問機関である経済審議会委員もつとめた。 私的な経済構造調整研究会の報告を公式の政策に仕上げるため、同審議会のなかに首相のきもいりで経済構造調整特別部会が設けられたが、その委員にもなった。
Tは、こうしてNファミリーの一員として、事前にNのはらを知り、またその政権の内部者として国家の重要な政策の立案にかかわった。 今日、「経済構造調整」政策は、大企業を中心に海外進出や大幅人員削減、関連下請け中小企業の淘汰などによって、産業「空洞化」をもたらしている。
TはNファミリーとして、また、その政権の内部者として、まだ一般には公表されないうちに、そのインサイダー情報を手にする立場にあった。 Nも、ファミリー会議の「経済政策に関する研究会」のメンバーとなって、財界と大企業のための「民間活力」導入などの経済政策の私案づくりに加わった。
この研究会の私案を公的な国家政策に仕上げるため、Nがじきじきに指名した特別委員として、政府の諮問機関である税制調査会に送り込まれた。 税制調査会は、マル優(非課税預貯金)廃止や間接税導入など税制を大企業本位に改変する政策の立ー会議の段階から政府の諮問機関の段階まで、N政権の税制などの重要な経済政策の立案にかかわり、当然、政権内部の未発表の情報を手にする国家的インサイダーだった。
Sは、N直属ではなかったが、そのお声がかりでつくられた「私的諮問機関」の「国連の平和維持機能強化に関する研究会」と危機管理問題懇談会のメンバーとなった。 前者は、国連軍に協力するという形式で自衛隊の海外派兵の方向を打ち出した。
また、後者の危機管理懇談会は、〈危機管理〉の名でコンピューターによる〈情報システムの提言〉(同報告書)をおこない、内閣調査室を情報センターとするなどの戦時体制づくりを提言した。 これらの戦時体制づくりの私案を公的な政策に仕上げるために、政府諮問機関の行革審に設けられた総合調整問題小委員会で検討した。

Sはその参与とともに、内閣に国家権力や国家情報を集中する方向を打ち出した内閣機能等分科会の参与もつとめた。 以上のように、N証券とN総研のトップ三人を見ただけでも、彼らがN政権の内部者となって、その「戦後政治の総決算」路線をともに歩んできたことが明瞭である。
下手な与党国会議員や政府関係者よりも、首相のそばにあって裸の付き合いで国家の重要政策にかかわってきた。 首相といえば、いわば「株式会社ニッポン」の社長といえる。
この株式会社ニッポンの経営方針の私案を政治的ファミリーのあいだで論議する段階からへまるで経営陣の一員であるかのようにかかわってきた。 国会などはむしろその国家政策の論議の外におかれていた。
大蔵省にしても、頭越しに重要政策が決められ、たとえ証券取引法や省令、通達があっても、頭の上のN証券を不正取引行為で取り締まる勇気しかし、最も重要なのは、TらトップがN政権の内部者として働いただけでなく、彼らの株式会社に出てこない。 社であるN証券とN総研の営業に、N政権のインサイダー情報を十分に活用してきたことだ。
たとえば、彼らはマル優の廃止や大型間接税の導入などの税制改変の政策立案に加わることによって、未公開の動向や情報を知る立場にあった。 そして、N証券ははやばやとマル優廃止後の作戦を練ってきた。
八七年一0月からの営業年度の営業方針は、社内でも「超厳秘」という最も厳しい秘密扱いになっているが、そこでもマル優廃止を当て込んだ営業戦略を打ち出している。 その営業方針では、マル優廃止によって、二七0兆円という国民大衆のマネーが動くとみなし、それを「ターゲット・マネー」としている。

そのうちN証券には二八兆円が流れ込むように「商品戦略」を立て、「新規商品供給」の計画を立てている。 これが、半期ごとに預り資産を二0%ずつふやすという「ジャパニーズ・ドリーム」の基盤の一つになっている。
また、さきの誘導アンケート調査を担当したN総研地域開発研究部の営業も、彼らが事前に知りえたMレポートの経済構造調整研究会の情報を活用していた。 こうした国民には公表されない国家的インサイダー情報の活用については、N証券も否定するだろう。
国民の国家そのものへの信頼をも傷付け、とんだ結果になりかねないからだ。 だが、平気で「死んだ客」をつくってきたN証券ほどの企業は、トップたちがせっかく高いコストで仕込んだ情報まで、ダダのまま見捨てるとは考えにくい。
証券取引法には、〈証券会社の常務に従事する取締役は、大蔵大臣の承認を受けた場合のほか、他の会社の常務に従事し、又は事業を営んではならない〉(四二条)などの厳しい定めがある。 証券会社も〈証券業以外の業務を営むことができない〉(四三条)だけでなく、外務員の届け出義務(六四条)まで定めてある。
それは、その業務の性格上、不正行為があった場合に、その被害があまりも大きくなる可能性があるか鱈らだろう。 ところが、現実には、N証券という〈証券業の常務に従事する取締役〉のトップたちが、〈大蔵大臣の承認〉どころか、首相とのじきじきの裸の付き合いにはじまって、この「株式会社ニッポン」の経営方針の立案にかかわってきた。
しかもそこでえた国家的インサイダー情報を、N証券の営業に活用しているというわけだ。 国家的インサイダー取引というほかない。
インサイダー取引などの不正取引行為は、先進諸国ではより広い視野からより広い対象にひろげられつつある。 アメリカでは、不正取引行為は厳しく摘発され有罪判決を受けているが、『A新聞』のN特派員の報道(八七年一月一七日夕刊)によると、一月一六日、アメリカの最高裁判所が重要な判決を下している。
その判決は、有力経済紙『ウォールストリート・ジャーナル」の元記者に下したものだった。 被告は、記者としてウォール街の情報を扱うコラムを担当していたが、その記事の情報の内容を知り合いの株式ブローカーに教え、見返りにマネーも受け取っていた。
担当していたコラムは、証券界にも影響があり株価が動くことも多かった。 裁判では、上場会社とは直接の関係のない記者も、大株主や上場企業役員のようにインサイダーの範囲に含まれるのかどうか争点となっていた。
だが、判決は、インサイダーの範囲が大株主や会社役員の範囲に限らないと結論づけた。 これは、アメリカのジャーナリズムのためにも喜ぶべき判決であり、N証券のチョウチン持ちを恥じない日本のジャーナリズムのためにも、大いに教訓となる。


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